2014年9月28日日曜日

「シリアルアントレプレナーにおける再起動時間についての考察」

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シリアルアントレプレナーにおける再起動時間についての考察

まず僕自身が考える最も良い起業というのは、自分の始めた一つの会社を生涯ずっとやることだと思っている。これが前提なのは間違いないが、実は日本を代表するHONDAも、一社目の自動車修理工場(アート商会)は後進に譲り、2社目のピストンリング製造事業もトヨタに売却、そこから得た資金で再度起業したのが、今皆が知っているバイク・自動車製造のHONDAだ。また、最近は初期より他人資本を活用するタイプの起業が日本国内でも増え、シリアルアントレプレナーと呼ばれる連続起業家も結果的に増えている。またイーロン・マスクのようにテスラとスペースX、ジャック・ドーシーのTwitterとスクウェアなど同時進行で大きな事業を複数運営する天才も現れているので、考察してみたい。

自分の周りにも自らの事業を売却した人が複数人いる。友人や諸先輩方を含めそういった起業経験を持つ方々からベンチャーファンドとして後進の育成のためにと預けてくれた資金を運用していることもあり、比較的身近でそういうケースを観測できる立場に普通の人よりも恵まれていると思う。その観測の中で僕は連続起業家が、M&Aや株式上場等なんらかの理由で自分で作った会社を離れ、次に転機となるアクションを起こすまでの時間を"再起動時間"と呼んでいる。

一般的に自分の始めた会社を去って、しばらくの間は、皆いろいろな事由から、活動が表面上穏やかになる。それは、競合的な事業の法律的な縛りであったり、ストックオプションの行使期間により買収後の企業での継続勤務が一定期間義務づけられていたり、あとは、創業のハードな緊張の連続から脱し、精神的にいったん「休憩モード」に入っていたり、事業から一歩離れてエンジェル投資家になっていたり、と人により様々だ。
しかし、多くの人は、一定の期間を経て、今一度活動を開始する。
まず大きく分かれるのは、投資家になる場合と起業家になる場合だ。シリコンバレーでも、功なり名をあげた企業家が、その信頼と経験からファンドレイズを行ったり、既存の老舗VCにパートナーとしてジョインするなど、投資家への転身が目立つ。今回の考察で焦点をあてたいのは、もう一つのケース。
そう「もう一度、起業する」を選んだ人たちだ。

一度起業をした人が、もう一度起業しよう、そう思った人は、相当な覚悟があることは明らかだ。誰もがきついと思う創業を、既にやったことがあって、当然その内実も知っている。若気のいたりで会社をはじめたような夢見る学生起業家とは一味違う。あの起業家精神のかたまりともいえるポール・グレアムですら、「あれをもう一度やるのは本当に大変」と言わしめるほどにひどい感情のジェットコースターを既に経験した上で、またやってみよう、と思える人。また、ある程度の経済的余裕を手にいれた後でも、多少築いた自分の評判が落ちるかもしれないということも軽々と無視して、まだ燃える情熱を持って自分のテーマに挑んでみようという人たちだ。

彼らが「再起動」をするタイミングには人によって違いがある。もちろんそれぞれ事情が違うので一概には言えないが、僕が注目したいのは、「再起動時間」がきわめて短いタイプの人たちだ。
彼らは生きるのにせっかちで、マイペースという言葉を知らない。常にあくことなき前進をもとめている。散歩にいくとき飼い主の引き綱を目いっぱいぐいぐい引っ張っていく中型犬のような、前進に対する情熱をもったタイプだ。そういうタイプは決して1年もじっとしていられない。

僕の千葉東高校の同級生でもあるフリークアウトの本田氏は、ヤフーに1回目に起業したコンテンツ連動広告事業を売却し、ヤフーのテクノロジー部門での業務を経て、かなり早期に起業家に復職した。二回目も創業出資させてもらい、始めにオフィスを15坪づつ分け合ったのが遠い昔に感じられるほど、また再び破竹の勢いで成長している。本田氏はご家族から「これは家族のための起業か、あなたの個人のための起業か」と熟考を迫られたが、強い意志で決断したらしい。奥様すみません。
早稲田大学の入学当初の頃の学友の一人だった伊藤まさお氏も、在学中から運営していた「みんなの就職活動日記」を楽天に売却し、今はユーザーローカルという分析事業を展開している。(伊藤まさお氏は楽天時代にグリー社長の田中良和氏にプログラムを教えた師匠でもあり、日本のベンチャー界隈でひっそりと、非常に重要なメンター的な役割を果たしている稀有な人物だ。あまり表にでてこないが、ごくたまに聞かせてくれる彼の意見を"デルフォイの神託"だと思って真摯に耳を傾けている。)

よく世間の話題になる家入さんも1社目のペーパーボーイでレンタルサーバー事業を立ち上げ、代表退任後はカフェなどを複数開業、今はCampfireやBASEの共同創業など、数多くの事業を世に送り出している。(ユニークな行動の陰で、あまり注目されていない側面だが、家入さんはペーパーボーイを創業の初月から常に月次黒字で経営し、自己資金により成長し、九州の片隅から最年少で上場までこぎ着けたのはすごいと思う。今みたいな起業家万歳の時代ではない、田舎で起業するって、相当大変だったろうに。)
一度成功をしたシリアルアントレプレナーであれば、経済的な動機はもはや二次的となり、自己の表現としての起業、芸術家にとっての絵画、作曲家にとっての音楽といったものの代替として、サービスおよび事業作りによって世間に表現する。
共通するのは、「まだまだ一丁やってやるぜよ」感。
「まだやることいっぱいあるよ」、「まだこんなもんじゃないよ」、「まったり世の中を眺めて評論家的な役割をしてる場合じゃないよ」、といわんばかりの想い。
そういうタイプのシリアル起業家と仕事をするのは本当にワクワクして楽しいですし、もともとまったり隠棲的になりがちな自分の消極さの反省になる。

そう そして、世界一周の海外放浪から帰国し、近々でまた活動を開始した山田進太郎氏率いるコウゾウに注目。いよいよ動き出す!僕も再び取締役として最前列で躍動を感じ、できる協力をしていきたいと思います。
30代以降のロートルが、20代の輝く若手の起業家ホープを押しのけて、一気に存在感を出してきたら面白い。出会った時まだ20才かそこらだった進太郎も、気付けばもう30代半ば、若者どもに中年の意地を見せてやってくださいな。
来週はIVS北海道!
来週新たに1件、素晴らしい中年起業家への投資実行を発表します。こうご期待。
East Ventures/クロノスファンド 松山太河

2013年5月18日 のFacebookのエントリーを再掲したもの
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(※コウゾウは、後にメルカリに社名変更)
(※文末の投資実行は、ツイキャス提供のモイ社でした)

2014年5月27日火曜日

投資の失敗について

<投資の失敗について> 
僕のような小型のアーリーステージの投資組合にとっての投資の損失というのは、そもそもの掛け金が比較的小さいので、全損であっても影響は小さい。
最大の投資の失敗というのは、目に見えない「投資すべきだったのに投資しなかった」機会損失にあるように思える。

代表的な失敗事例をあげておきます。

・グリー初期にの元ネットエイジで一緒に働いていた山岸氏(現副社長)から相談を受けた際に、時価総額が×億で高いな~と思った。→いまでは東証一部の時価総額数千億の日本を代表する会社に。
・当時まぐまぐでアルバイトしていた佐野君が料理サイト作ってて、当時僕は、「趣味のサイトか~ ひまなのかな~」と思っていた。→月間UU2000万人のクックパッド

・アクセンチュア時代の先輩吉松さんに喫茶店によびだされて、当時まだ大学生だった田中良和氏と一緒に話を聞いて、化粧品のメルマガを出すんだ、と説明された時には「吉松さん!!オトコなのに!!!」と思って、どうやって資金の相談につながらないようにするか、懸命に話をそらしていた。→@コスメ大成功 一部上場おめでとうございます!

・eGroupsの日本法人取締役を引き受ける際に、サンフランシスコで、eGroups創業者1人のカール・ページから、今度弟が起業して検索サイトを始めたんだ、と弟さんを紹介されたけど、「え!いまさら!検索エンジン!!!アルタビスタかよw!Gooooogle!死ぬほどスペルうちにく!」と思った。
あと弟が兄より出世するなんて、ありえないと自信を思っていた。
→ラリー・ページは、その後神速で世界制覇

・ネットエイジ時代に西川さんとシリコンバレーの「Idealab」を訪れた際に、小さなスペースに机がちょこっとだけあったOvertureを見つける。ビジネスモデルを聞いたら、「検索結果に広告を差し込むんだよ!」と聞いて、帰りしな西川さんと2人で「!!!ぜったいに!!!この会社は!!!ダメですね!!!!!」と確信していた。
→その後Yahoo!が買収、Googleも採用するビジネスモデルに

ちなみにその際に、多数の机とスタッフで大きなスペースをわが者顔で占めていた玩具ECの「eToys」をみて、僕も西川さんも「この会社は勢いがあって!一番成功しそうですね!!!」と言っていた。→デラウェア破産裁判所で2001年倒産
ほんとうにわからないものです。。。

2013年2月20日 のFacebook投稿 松山太河

2014年3月30日日曜日

■動物園とサバンナの話

■動物園とサバンナの話

もうすぐ4月が始まる。「大きなとこで修行してから、力をつけてスタートアップしようかな」という考え方には、部分的に賛成する部分もあるけど、気をつけなければいけないのは、本質的に給与のもらい方が異なることを理解しておかないといけないと思う。

大企業で働くのは快適で、動物園の動物に似ている。温度も快適に調整されていて、エサは毎食ほぼ決まった時刻に支給される。毎日やってくる観光客に、自分の役割を披露していれさえすれば、辞めさせられることもない。その代わりとしては与えられた檻(その会社の事業領域や権限範囲)からでることはなかなか容易ではない。

スタートアップはサバンナの動物に似ている。時間も居場所も自由。その代わりに野を駆けまわり自分で獲物(売上)を獲得するか、資金を何処かから調達しない限り、エサは手に入らない。獲物が手に入らなければ、そのまま飢えて死んでしまう。だからエサは与えられるものではなく、自分で獲得するべきものだ。
(幸運にもほかの人が見つけてないような良い狩猟場を見つけられたら、一挙に所帯が増加できる場合もある。)

「大きな会社で働いてから、力をつけてスタートアップをすればいい」と考える人は、大きな会社にいてもサバンナのような気持ちでいないといけない。毎時決まった時刻にでてくるエサはある意味麻薬的で、それが途切れるということは大きな恐怖になりうる。多くもらっている人ほど、飛び降りる崖の高さは高くなる。これはやってみた人でないとわからないかもしれないけれど、定常収入が無くなるというのはすごくストレスフルなことなんだ。

仮にその恐怖を乗り越え勇気を出して荒野に出ても、長く動物園でエサは定刻にほぼ自動ででてくることに慣れてしまった動物にとって、サバンナで生きていくことは容易ではないだろう。大企業修行組の若者は、快適な動物園にいることによるリスクもあるいうことも認識した上で、自分に厳しく研鑽をすべきだと思う。日本でも大企業のエリートとスタートアップを行き来するような人生設計がごく一部では見られるようになってきたのはとても良いこと。もちろんまだ到底カリフォルニアほどではないと思うけれども、それでも10数年前にくらべればぐっと良くなったと思うんだ。

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※自分自身はスタートアップに頼って生きている身だけれども、大多数の人はサバンナで生きていくのは難しいことだと考えている。だから、決して本稿でサバンナを賞賛したいのではなくて、むしろ適切に危険をお知らせしたいくらいだ。(実際に思っているよりも数倍も数十倍もエサを捕るのはむずかしい。)
ただ、動物園にいるのも一つのリスクではある時代。日本経済を救うくらいの潜在力をもった、ごくごく一部の凄い野生の動物のために、このエントリーを捧ぐ。
Taiga Matsuyama