■動物園とサバンナの話
もうすぐ4月が始まる。「大きなとこで修行してから、力をつけてスタートアップしようかな」という考え方には、部分的に賛成する部分もあるけど、気をつけなければいけないのは、本質的に給与のもらい方が異なることを理解しておかないといけないと思う。
大企業で働くのは快適で、動物園の動物に似ている。温度も快適に調整されていて、エサは毎食ほぼ決まった時刻に支給される。毎日やってくる観光客に、自分の役割を披露していれさえすれば、辞めさせられることもない。その代わりとしては与えられた檻(その会社の事業領域や権限範囲)からでることはなかなか容易ではない。
スタートアップはサバンナの動物に似ている。時間も居場所も自由。その代わりに野を駆けまわり自分で獲物(売上)を獲得するか、資金を何処かから調達しない限り、エサは手に入らない。獲物が手に入らなければ、そのまま飢えて死んでしまう。だからエサは与えられるものではなく、自分で獲得するべきものだ。
(幸運にもほかの人が見つけてないような良い狩猟場を見つけられたら、一挙に所帯が増加できる場合もある。)
「大きな会社で働いてから、力をつけてスタートアップをすればいい」と考える人は、大きな会社にいてもサバンナのような気持ちでいないといけない。毎時決まった時刻にでてくるエサはある意味麻薬的で、それが途切れるということは大きな恐怖になりうる。多くもらっている人ほど、飛び降りる崖の高さは高くなる。これはやってみた人でないとわからないかもしれないけれど、定常収入が無くなるというのはすごくストレスフルなことなんだ。
仮にその恐怖を乗り越え勇気を出して荒野に出ても、長く動物園でエサは定刻にほぼ自動ででてくることに慣れてしまった動物にとって、サバンナで生きていくことは容易ではないだろう。大企業修行組の若者は、快適な動物園にいることによるリスクもあるいうことも認識した上で、自分に厳しく研鑽をすべきだと思う。日本でも大企業のエリートとスタートアップを行き来するような人生設計がごく一部では見られるようになってきたのはとても良いこと。もちろんまだ到底カリフォルニアほどではないと思うけれども、それでも10数年前にくらべればぐっと良くなったと思うんだ。
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※自分自身はスタートアップに頼って生きている身だけれども、大多数の人はサバンナで生きていくのは難しいことだと考えている。だから、決して本稿でサバンナを賞賛したいのではなくて、むしろ適切に危険をお知らせしたいくらいだ。(実際に思っているよりも数倍も数十倍もエサを捕るのはむずかしい。)
ただ、動物園にいるのも一つのリスクではある時代。日本経済を救うくらいの潜在力をもった、ごくごく一部の凄い野生の動物のために、このエントリーを捧ぐ。
Taiga Matsuyama